shanの落書き帳

ポケモンときどき〇〇

無題43

 

 

みなさんこんにちは、shanです。

今回プレイした作品はこちら。

 

終のステラ | Key

 

 

keyから2022年9月30日に発売された「終のステラ-Stella of The End-」です。keyが2020年に発表したキネティックノベルシリーズの第3弾として発売された本作は、シナリオライターとして田中ロミオ先生を起用したことから、以前から興味がありました。私は「人類は衰退しました」でロミオ先生のファンになり、「CROSS†CHANNEL」(PSP版)はプレイしています。なお「Rewrite」のゲームはやったことがない模様。

この作品は副題がついており、「Even if humanity dies, the machines we have created will inherit our love and create the future.」と書かれています。直訳すると、「例え人類が滅んでも、私たちの作った機械が愛を受け継ぎ、未来を創っていく。」となるでしょうか。この作品は(当たり前ですが)この副題を根底に流し、「愛」や「未来」と言った概念の抽象を幾重にも表現した、素晴らしい作品であると感じました。オタクは同じことを違う表現で何度も表現するのが好き。

終末世界という題材も個人的に好きなので、それもよかったです。また、題材があまりにも「planetarian 〜ちいさなほしのゆめ〜」に似ているだろうと思っていたのですが、終わってみるとあまり気になりませんでした。

なお、題名に関しては「ついのすてら」と読むそうです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

以下、常体。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・攻略

 

キネティックノベルという特殊なジャンルで、選択肢は無し。全年齢なのでHシーンもなし。プレイ時間は7~9時間くらい。

 

・あらすじ

 

本作はチャプターごとに分かれた構成をしており、せっかくなのでチャプターに分けてあらすじを書いていこうと思う。なので先にキャラ紹介を済ませる方がスムーズだが、最低限のあらすじだけはここに書いておく。

 

今から数千年は未来の話。地球はシンギュラリティマシンという機械によって支配され、人類のものではなくなっていた。機械群から逃れてひっそりと暮らす人類のコミュニティ間で技術や物資を運ぶ「運び屋」という仕事をしていた主人公「ジュード・グレイ」はある日奇妙な依頼を受ける。それは「人類の復興のため」に、あるアンドロイドを人類の生活圏を離れて危険地帯を越え、指定された場所まで運搬してほしいというものだった。ジュードは人類の復興という夢物語のため、また報酬として提示された失われた技術や莫大な金のため、この危険な依頼を受けることを決めるのだった。

 

 

 

・キャラ

 

上述したとおり、先にキャラ紹介を行う。

 

 

 フィリア

 

ジュードが運ぶことになったアンドロイドの少女。ジュードがとある遺跡(古代の科学技術が眠っている施設群の総称)でAIによって製造されたのを発見する。意識を覚醒させてすぐ、ジュードに「人間になるため」に「人間になれる場所」へ行かなければならない、と言う。自分がアンドロイドであることは認識しているが、普通のアンドロイドとは違って、普通の人間レベルのスペックしかない。生まれたばかりで名前が無かったが、ジュードによってフィリア(過剰な愛情という意味。不必要なほどフィリアを人間に似せて作った設計者への皮肉をこめている。ギリシャ哲学においてフィリアは4つの愛の1つであり、友愛と訳されるらしいが、これ以上はわからないので深掘りしない。)と名付けられた。小さな子供のように好奇心旺盛でジュードを振り回し、また人間の善性を信じている穢れなき思想は、度々ジュードを困らせていくようになる。アンドロイドであるが、怪我をして出血をしたり、飲食を必要としたり、体温や表面上の組成が人間と変わらなかったり、疲労したりする。しかし、骨格は非金属性の特殊素材でできていたり、臓器がダミーだったり、心臓部にはモーターポンプと永久バッテリーが埋め込まれていたりと、機械であることは間違いない。

フィリアはAe(Artificial ego)型アンドロイドと呼ばれる種類で、設計者も製造目的も不明だが、自我を持ち、肉体的にも多少の成長が起こるアンドロイドだった。また、破壊されると自動的に焼失するようになっているため、サンプルが少なく研究が進んでいない。

 

CVは指出毬亜さん。「私に天使が舞い降りた!」の白咲花くらいしか知らなかったが、フィリアの感情豊かな感じがよく伝わってきて、またキャラデザにもあっていたので、よかったと思った。

 

・ストーリー

 

Day15 遭遇と覚醒

 

プロローグ。世界観の説明。ジュードが依頼を受けたあと、フィリアを発見するところを先に描写する。この後OPが流れる。

 

Day00 疑わしき依頼

 

ジュードが依頼を受けるところ。依頼人は「ウィレム・グロウナー」と名乗る、失われた国の公爵の老人で、ジュードとは映像越しに対面する。

 

Day15 旅の始まり

 

ジュードがフィリアを発見したシーンに戻る。ジュードは、公爵に会えば人間になる方法がわかるかもしれない、という曖昧な表現でフィリアを連れ出す。ジュードは合理性を突き詰めたような性格をしており、フィリアが高性能なアンドロイドでないことに内心で失望する。ジュードとフィリアは、ジュードが拠点としていた街に戻るが、街の入口の検問で野人(やじん)の男と出会う。野人とは、人類のコミュニティ外で育ったため、心が獣に戻ってしまった人間で、コミュニティ内の人間からは同じ人間扱いをされていない。フィリアは検問を突破できるが、野人の男は警備兵に銃で撃たれてしまう。フィリアは同じ人間同士でも攻撃しあい、人間として扱われていない存在がいることに衝撃を受けて、理解できず涙を流す。ジュードはフィリアを客扱いで運ぶことに決めたため、正論を言わず、フィリアをなだめてどうにか街へ入れさせる。ジュードは、フィリアと旅をするにあたって、人の形をしたモノであるフィリアに必要以上に感情移入しないように気を付けていた。しかし、ジュードが老人から受けた次の指令は、次のチェックポイントまでフィリアを輸送することと、フィリアの心を育てるため、フィリアを人間扱いすることだった。

 

Day19 歪な機能

 

旅を始めて数日経ち、ジュード達はとある廃村で一泊することにする。何度注意しても、ジュードの索敵がまだ終わっていないのにフラフラと好奇心のままにジュードから離れるフィリアに、ジュードは客扱いなのだから、と思い怒りを飲み込む。どうやらフィリアには忘却、誤魔化し、噓をつく、と言った機能まであるようだった。また、感覚的に行動している節もあった。

 

Day20 認識不能な空間

 

ジュードは廃村で、光学迷彩を貼って隠れていたシンギュラリティマシンを見つける。シンギュラリティマシンはこちらから襲わない限り敵対行動をとらないが、一度敵対してしまうとこちらが全滅するまで追いかけてくる他、何が敵対行動に当たるのかもはっきりわかっていなかった。警戒し、廃村から逃げることにしたジュードだったが、フィリアは感覚的にこの子は危なくない、とジュードに告げる。しかし、フィリアを信用できないジュードは、結局逃げることにするのだった。

 

Day23 生き残るための教育

 

食糧が心もとなくなってきたため、フィリアに食事機能が必要かどうかわからない、という理由でフィリアに断食させようとしたジュードだったが、フィリアが悲しそうな顔でジュードを見るため、結局その選択肢をとることができない。また、危険があった時に備えて、フィリアに拳銃を渡そうとするが、「人殺しの道具」だとして、フィリアは決して受け取らない。甘い事を言うフィリアに怒りが湧くジュードだったが、フィリアは客だからと自分を納得させて強くは言わない。

 

Day24 フラッシュバック

 

ジュードは食糧の補充のために鹿を撃とうとするが、かわいそうだ、というフィリアに邪魔されて鹿を逃がしてしまう。思わず怒鳴りそうになったジュードだったが、すんでの所でこらえる。代わりに木の実や草、魚を集めることにするが、魚や干し肉はかわいそうだと思わない、と回答したフィリアに対して、ジュードは人間のエゴを垣間見る。また、かつてフィリアと同じことを言っていた女がいた事を思いだし、ジュードは不機嫌になる。

 

直前までたまたま「ゴールデンカムイ」を見ていたこともあって、このフィリアの考え方には自分も反吐が出そうになった。結局人間が生きていくためには他の命を奪わざるを得ないのであって、そもそも特定の生命だけを特別視する思想は嫌いだ、といった話は関係がないのでここではおいておく。

 

Day26 廃墟都市

 

ジュード達はルート途中にあった都市遺跡を通過することになる。そういったアーコロジーは人類の科学技術が最盛期だった時代にはよく見られたものだが、人類の衰退に伴って末期では住民同士の対立もよく起こっていた。フィリアは処刑され、磔にされていた、旧支配層と思われる人々の骸骨を見て、悲しみの感情を抱く。

 

Day27 歓迎された侵入者

 

ジュード達は都市内で迷子になり、一泊することになる。フィリアは翌日、都市を歩いている途中で子どもを見つけ、勝手に追いかける。ジュードも後を追うが、フィリアは追いかけていた少女の属する野人たちの群れに攫われてしまう。その野人たちは、何世代もの間その都市遺跡内で過ごしていたため、生活はひどく原始的で言葉も忘れ、またジュードが持つ銃についても何かわかっていなかった。ジュードは野人たちを銃で虐殺しながら、攫われたフィリアを探す。フィリアは足首を潰され、奴隷にされかけていた。フィリアを取り返したジュードだったが、フィリアが最初に追いかけていた少女が、ジュード達が逃げる邪魔をして、ジュードの足に取りすがってくる。少女を撃とうとしたジュードだったが、フィリアに邪魔され、それでも何とか野人たちを撒くことに成功する。ジュードはついに堪忍袋の緒が切れ、フィリアを客扱いするのをやめて、銃を持たない限り、これから先は連れていけない、とフィリアに告げる。フィリアは全ての人間を救う事ができない世の中に絶望するが、それでもジュードに置いて行かれたくないと言う。ジュードは、都市内を探索しているときに見つけたおもちゃの銃を渡し、これで心構えは帯銃している、と妥協する。また、これからはフィリアを弟子として扱うことにする。なお、フィリアの潰された足首は1日ほどで自動修復される。

 

 

ここまでで、現実主義のジュードと、人間を理想化しているフィリアとの対立を描き、正直フィリアの甘さにはイライラしていたのだが、ここから先でフィリアが成長していくことを知っている今、この序盤のシーンも必要だと理解できるのがよかった。

 

Day28 生きる廃墟

 

ジュード達は、アーコロジーの層間をつなぐ鉄道の路線を歩いて、都市を脱出するために最上層を目指すことにする。途中で、層間で争いがあった昔に設定されたままだったロボットに襲われるが、無事に切り抜ける。そして、最上層に設置されていた索道を使って、元はリゾート地だった山まで移動する。

 

Day29 否定

 

山に到着して一息つき、フィリアは冗談からジュードを「お父さん」と呼ぶが、ジュードはそれに激昂する。冷静になった後、ジュードはなぜ人間になりたいのか、とフィリアに尋ねる。理由はわからない、と答えるフィリアに、ジュードは、それは人間の親が子のために死ねるのと同じで、フィリアの本能なのだろう、と解釈する。そして、本能には後付けでもいいから理由を伴わせろ、とフィリアに助言する。

 

この時のジュードのセリフは名言と言っていいものだと思う。

 

Day34 束の間の休息

 

ジュード達は海を目指して進み、フィリアは初めて見ることになる海に想像を膨らませる。ついに海に到着しはしゃぐフィリアを、ジュードは最初ほど強く注意せずに見ている。フィリアはジュードの警告を無視して泳ぎ出すが、溺れてしまい、海底を歩いて帰ってくる。フィリアは息を吸わなくても活動できることが判明する。

 

Day37 到着

 

ジュード達は老人の指定した中間チェックポイントに到着する。野人戦でジュードの負ったケガのため、ジュード達はしばらくこの拠点で休息することにする。ジュードは老人と再びモニター越しに会話するが、老人はフィリアを人間扱いせず、無視しているようだった。フィリアの人間的な成長を認める発言をしながら、フィリアの人間性を否定している姿にジュードは違和感を覚える。ジュードは老人との会話で、シンギュラリティマシンはAIによって「公益のために」製造されたこと、かつて人類がAIに国家運営を任せるようになった結果として、AIの行う事業の目的が長期的すぎて人類に理解できず、それが人類の衰退につながっていったこと等を知る。ジュードはフィリアと老人を会話させようと考え、フィリアは人間になりたい、という自身の考えを老人に伝える。それは、旅の間に見てきた苦しんでいる人々の力になりたいからで、自分が機械だと人間から認めてもらえない、という考えを持ったからだった。また、人間になるとは具体的にどういうことか、という質問に対しては、生身の身体を持ち、今の自分と同じ考えを持った、生身の脳が欲しい、と答える。その答えを聞き、老人はその方法について考えておく、とフィリアに応える。また、フィリアが退席した後、老人はフィリアに心があることを確信した、とジュードに語る。老人によれば心の発達には本能と恐怖が必要で、フィリアには人間になりたいという本能があり、また人間の命が失われることを極端に恐怖する傾向にあった。ジュードはこの時点でかなりフィリアに感情移入してしまっていたがそのことを自覚して自制しており、老人の偉業の達成とフィリアの願いは両立するのかと尋ねる。老人はそれを否定し、またアンドロイドに人権があるという考えを持っていないため、何もそれを悪い事だと考えていないが、ジュードはその答えに揺れる。しかし、運び屋としての仕事を優先し、今はそのことを棚上げにする。

チェックポイントの拠点はかなり高度な設備がそろっており、ジュードはフィリアに渡したおもちゃの銃を修理して、改良する。また、老人から物資の補充を受けて出発する予定だったが、シンギュラリティマシン「クリムゾンアイ」による襲撃を受けて緊急脱出することになる。

 

Day59 救難信号

 

さらにチェックポイントまで南へ旅を続けるジュード達だったが、ジャングルを移動している途中、フィリアが救難信号を出している少女を探知する。人類の生活圏ではない密林でそんなことをするやつは罠に違いないとジュードは断言するが、フィリアは万が一のことを考えて様子だけでも見に行きたい、とジュードに頼む。ジュードはフィリアの人間を助けたい、という衝動についてはあきらめてきており、またフィリアのいう事を無視できないほどフィリアに入れ込んできていることもあって、実銃の帯銃を条件にそれを許可する。フィリアは今まで忌避してきた銃を初めて手に取る。ジュード達が近づくと、少女はアンドロイドであったことがわかるが、やはり少女は囮で、潜伏していた男たちにジュードとフィリアは拉致されてしまい、装備も没収されてしまう。男たちは西部の言葉で話したためジュード達と会話ができず、またジュードは男たちから毎日尋問と死刑を受ける。

 

 

 デリラ

 

ジュード達が森で出会った少女のアンドロイド。フィリアと同じAe型。左足を損傷しており、また頭部にも一部欠損があって記憶が欠けている。ジュード達と同じく男たちに囚われているが、アンドロイドであるため暴行は受けていない。製造されてから西部をうろついていたところを東部人の運び屋であった人間に拾われ、それからはその人間を父親と呼んで一緒に旅をする。そのため東部の言葉も話す事ができ、ジュード達とも会話ができる。彼女らにも老人からの接触があり、ジュード達の目的地と同じ場所に向けて、父親と向かっていたところを、今の集団に襲われて父と離れ離れになってしまった。ジュード達を逃がす手助けをする代わりに、南にいる父に会うため、一緒に旅に同行させてほしいと取引を持ち掛ける。

 

CVは花守ゆみりさん。「ゆるキャン△」のなでしこで有名になった人。個人的には声が割と好きで、アホの子の演技からシリアスな低い声まで何でもできるのがすごい。

 

デリラという名前については、旧約聖書に出てくる「サムソンとデリラ」からとったのかと考えたが、別に悪女ではないし、裏切ったりもしないので、違うのかもしれない。

もし何か理由があるなら、わからなかったことが恥ずかしいのでこっそり教えてください。

 

 

Day64 囚われの運び屋

 

ジュード達はデリラの手引きの元、男たちの拠点を脱出する。デリラによると、彼らは西部の街からやってきた冒険者たちで、新しい土地を開拓するための旅だったが、シンギュラリティマシンに襲われてこの地まで逃げてきたということだった。ジュードがデリラに頼んで仕掛けておいたプラスチック爆弾が爆発したことで、男たちが激怒してジュード達を追いかけてくる。ジュード達は男達と交戦になり、その中でジュードはフィリアを庇って、防弾服の上から一発銃弾を受けてしまう。これで自分はもう引き返せないところまでフィリアに情が移っていることをジュードは自覚する。またデリラは、ロボット三原則を越えて、父親に会う事を最優先事項とし、人間を撃つことができた。デリラは人間を撃ったのは初めてだと言ったが、その射撃は正確で、人を撃てないフィリアと違ってデリラは役に立った。しかし、男達に増援が現れたことにより、ジュード達はピンチになるが、その時ジュード達を追って、以前チェックポイントを襲撃してきたシンギュラリティマシンの「クリムゾンアイ」が現れる。クリムゾンアイは先に攻撃した男達をレーザーで消し飛ばし、ジュード達を観察する。そしてデリラをサーチした時、急にクリムゾンアイがデリラをレーザーで攻撃してくる。ジュード達はなすすべなく気を失い、次に気が付いたとき、クリムゾンアイの姿はなく、デリラは下半身を蒸発させてしまっていた。ジュードは最低限の知識でデリラの電子回路の配線をつなぎ直すが、損壊がひどく、もう長くはもたないことがジュードにもデリラにもわかった。デリラは意識を取り戻し、父の元に案内してほしいとジュードに頼む。フィリアはジュードがデリラを修理している間に、男達の車両を鹵獲してきており、ジュード達はそれに乗って、デリラの伝えてきた座標へと向かった。

デリラの目的地は街ではなく、大きな岩の陰のような場所で、そこには1人の男の白骨死体があった。デリラはそれを父と呼び、ジュードはデリラをその横にそっと置いた。デリラは視覚を失い、また今回の破損で記憶がさらに欠損してしまっていた。デリラはジュードに、自分たちは老人の元まで行ったが、何かがあって自分と父は2人で引き返してきた、という事実のみを語った。自分の父は偉大な男で、立派な科学者であり、人類のために活動してきたのだ、と誇らしげに語るデリラに、ジュードは、デリラ達が引き返してきたのは、デリラの父が人類のために尽くすという自分の夢を捨てて、デリラと一緒にいることを選んだからだ、という考えを語る。フィリアはまだジュードの言葉の意味がわからないようだったが、デリラはその答えに満足し、やっと父の元に帰ってこれたのだと安堵して、機能停止する。フィリアはデリラの死を後悔し、デリラの形見の銃を自分から手に取る。

 

ぽっと出のキャラが死ぬ(退場する)ことは半ば規定事項ではあるが、短期間でかなりデリラの掘り下げを行ったため、その死にはそこそこのカタルシスがあった。また、花守ゆみりさんの、機能停止しかけのアンドロイドの演技が素晴らしく上手で引き込まれるようだった。

死ぬ前にデリラが言った「父とずっと旅をしていたかった」というセリフはその演技と相まってかなり心に刺さった。またジュードが言った「お前の父は夢を捨てたんだ、その意味がわかるか?」というセリフもかなり好き。

 

Day69 揺れ動く心

 

デリラの話を聞いたことで、フィリアの中に老人に対する疑問が生まれるようになったが、ジュードは「本当に老人に会う事で人間になれるのか」という質問に明確に回答することができなかった。また、フィリアはジュードが「仕事のため」に自分と一緒にいてくれることも薄々気が付きだしていた。それでもフィリアは、人間になるために老人の元に行くことを続けた。ジュード達はチェックポイントに到着し、そこからは船に乗って最終目的地まで向かうことになった。ジュードは老人と通信で面会し、今まで接触してきたシンギュラリティマシン「クリムゾンアイ」は、老人の計画を危険視して老人をつけ狙っている個体であったことを知る。クリムゾンアイは自我の育ちきったAe型アンドロイドを狙っており、フィリアはまだ自我が完成されていないと判断されたようだった。また、その判断基準が、アンドロイドの目が赤く光ることだと、ジュードはデリラを見ていて気付いた。また老人によると、Ae型アンドロイドは今もAIによって、数か月に一体のペースで製造されているようだった。

また、ジュードはデリラのことも老人に尋ねた。老人によると、デリラを運んできた男はデリラをモノとして扱っており、弾除けにしていたと推測され、デリラの欠損はその扱いによるものだった。老人は欠損を理由に報酬を減額したが、男はそれに納得せず、再交渉のためにデリラを連れて一旦去った後、男達の集団に襲われ、男は命を落としたのだろうということだった。実際、ジュードが見た白骨には銃創があり、デリラの語った父親像は、ちょうど断片的に記憶を失っていたデリラが、記憶を美化して創りあげたものだった。老人の検査時にはデリラは自我が育っておらず、老人の考える計画には適合しなかったが、デリラはその後、美化した記憶をもとにして自我を育てたのだろう、というのが老人の見解だった。ジュードには老人がウソを言っているようには思えず、老人を悪と断定してフィリアを差し出す選択肢も合理的ではなくなってしまった。

 

ここでデリラの記憶が偽りだったという設定を明かすのは、物語的にはあまり意味がなかったように思えてならなかった。これではせっかく感動したデリラの死が台無しである。また、これがAe型アンドロイドがあまりにも人間らしい、ということを伝えるエピソードの1つであるのだとしたら、もっと他にやり方はあったように思える。ちなみにどんでん返しの内容としては割と好きなので、やるならもっと舞台を整えて長尺でやってほしかったというのも本音。

 

 

Day74 対峙

 

ジュード達は目的地である孤島へとたどり着く。ジュードとフィリアはアンドロイドの運転する車にのって、老人の所に向かおうとするが、フィリアが人間になりたいという自分の望みをあきらめるから、老人の元にはいかない、と言いだす。ジュードにはこの事態は予測できており、解決策を3つ用意していた。ジュードはフィリアに不信を抱かれ始めたときから、フィリアが自分に父親としての役割を期待していることはわかっていた。

・フィリアの父親代わりとなり、一緒にこの島から脱出する

→運び屋としてのプライドを失ってしまうため、できない。

・フィリアを騙し、老人の元まで連れていく

→すでにフィリアに感情移入しすぎているため、できない。

・今までの関係を壊し、ヒトとモノの関係に戻る

→フィリアをモノ扱いし、フィリアに宿った心を(本物だと気づいていながら)偽物だと断じて、フィリアに銃を突きつける。

フィリアはジュードから見放されたことに絶望して絶叫し、ジュードに銃を突きつけ返して、目が赤く光る。ちなみにこれが、フィリアが初めて銃を人に向けた瞬間だった。ジュードはこの瞬間、自分はフィリアに撃たれてもいいと本気で考えたが、そのとき島の防衛機能が乗っ取られ、高射砲がフィリアを攻撃してくる。

 

ちなみにこのときのジュード、フィリアの演技は両方鬼気迫るものがあり、ジュードがフィリアをモノだと罵倒しながらフィリアとの思い出がバックで走馬灯で流れるシーンは、かなりよかった。

 

島の機械類を乗っ取ったのはクリムゾンアイであり、ジュードはフィリアを庇って何とか老人の元へフィリアを届けようと島を逃げ回る。しかし、現実に対する拒絶がフィリアの足に痛みとなって現れ、フィリアは足が痛くて歩けない、とジュードに言う。ジュードはフィリアからの信頼を取り戻すため、固定砲台となって、クリムゾンアイが繰り出してくるドローンからフィリアを守り続ける。フィリアはジュードに本心を尋ね、ジュードは自分の過去についてフィリアに語り始める。

ジュードは科学を忌避していた村の生まれで、両親はそのせいでロクな医療もうけられず、病気で死んだ。ジュードはそれで村を嫌悪するようになり、村にやってきた流れの運び屋から技術と装備を買い、遺跡に入って一攫千金に成功する。また、村で唯一自分に優しくしてくれた女との間に娘を作った。しかし、ジュードの成功が気に入らない村人たちによって、ジュードは村を追いだされることになった。女はジュードを庇ってくれず、ただ村人たちに謝れというだけで、ジュードは自暴自棄になって村を捨て、それからは危ない仕事ばかりをして、生き残ってしまい、成功し続けたことで徐々に認められるようになっていった。ある時、古代の遺物である浄水装置を手に入れたジュードは、娘の顔を見がてら、村に戻ることにした。しかし、ジュードが帰った時、飢饉によって村は滅び、女も娘もすでに死んでいた。それからジュードは仕事のために生きてきた。仕事をしているときだけが、自分が認められるときで、それ以外の自分はクズである。だからジュードにとっては仕事が全てで、フィリアを運ぶという「仕事」も決して途中で投げ出したりしない。自分は老人の語った、偉業という言葉に夢を見ていた、だからそのためにフィリアを連れていくつもりだった、とジュードは語った。また、フィリアの事は娘のように感じており、自分はフィリアの意志を尊重し、フィリアが逃げたいなら一緒に逃げてもいい、とジュードは言った。フィリアはやっとジュードの気持ちがわかった、といい、2人は和解した。そしてフィリアの足の痛みは治まり、2人は再び老人も元を目指すことにした。島の頂上まで来た時、シンギュラリティマシンの増援が来たという報告が老人から入り、ジュードはフィリアを先に老人の元に送り、自分は増援を食い止めることにする。フィリアは一旦は承諾するが、シンギュラリティマシンを引き連れて戻ってきた。増援だと思っていたシンギュラリティマシンにはなぜかフィリアの命令が通り、それによってクリムゾンアイを撃破することができた。しかし、クリムゾンアイの攻撃によってジュードは重傷を負っており、フィリアに肩を貸されて老人の持つ施設内の治療用カプセルへと入れられる。また、目的地は軌道エレベーターであり、ジュードとフィリアはそれに乗って月重力センターへと移動する。

 

Day76 人類の選択

 

ジュードが目覚めた時月重力圏内におり、また治療は終わっており、すっかり身体は正常に戻っていた。しかし、フィリアがおらず、またジュードの武器は全て取り上げられているようだった。しかしジュードは、フィリアの荷物の中に、以前改造しておいたおもちゃの銃が残っているのを見つける。これは一発だけだが、実弾が撃てるように改造しておいた銃で、こういう事態を想定してのものだった。ジュードはモジュール内を探索し、迷子になっていたフィリアを見つけた。そして2人はついに老人と接触した。老人は何百年も寿命を伸ばしてきた半機械化人間であり、地球の重力下ではもう生きられないので、ジュード達をここに呼んだ、ということだった。老人はジュードに、Ae型アンドロイドの脳は分子機械的性質を持った粘菌に、演算装置を組み込むことでできており、粘菌が複雑に絡み合う過程で自我が確立するのだ、とジュードに説明する。

 

この粘菌の話は、本筋とは関係ないが、絶妙にありそうでちょっと面白かった。

 

老人によれば、現人類は、長年の遺伝的変異の積み重ねにより、AIが定義した当初の人類から外れてしまっており、それ故AIから見て、今の人類は人類として認識されていない、ということだった。Ae型アンドロイドは、現人類とAIの橋渡しとなる存在で、初期設定で人類に好意的に造られるのは、人類と接触し、人類のコミュニティに溶け込んで、自らを通じてAIに人類の支援をさせるのが目的でAIによって作られたアンドロイドである、ということがわかった。老人の言う偉業とは、フィリアの自我を小型衛星に組み込んで、フィリアを通じてAIに指示を出させ、人類を復興させる、というものだった。フィリアはそれを聞いて、人間のためになるなら、とそれを受け入れようとするが、ジュードは、結局人間になれず、永遠に衛星に閉じ込められることになるフィリアに同情してしまう。ジュードはその計画を拒絶し、老人に銃を向けるが、ジュードが治療されたときに老人に体内に仕込まれたナノマシンが反逆の意志を読み取り、体内からジュードを攻撃してくる。しかしジュードはそれに耐えながら、老人を射殺する。老人は最期に「それはエワルドのためのハダリーなのだ」という言葉を口にして息絶える。

 

これは1886年にかかれた、初めてアンドロイドという表現を用いた小説「未来のイヴ」からの引用だが、読んだことがないため詳しい事は割愛する。ジュードはその言葉に対して、「こいつはただのハダリーだ」と返す。

 

フィリアの指示により、センターに待機していたアンドロイドたちによってジュードの応急処置が行われるが、それでもジュードの受けたダメージは大きく、ジュードの寿命は持ってあと72日だろうと治療を担当したアンドロイドから宣告される。ジュードはその内容を決してフィリアに言わないよう命令し、2人は地球へと帰還する。フィリアの心はさらに成長し、人間になるのは無理だと分かったうえでそれを受け入れることができるようになった。ジュードと一緒に運び屋を続けたい、というフィリアに、ジュードは残りの寿命を使って、自分の知識と経験を全て叩き込むことを決意する。

 

Day79 本当の旅

 

フィリアに、1人で生きていく術を教えるための最期の旅が始まった。ジュードはフィリアを信頼できるようになり、またなぜかついてきたクリムゾンアイの子機を拾って、ヴァーミリオンアイを略してver君と名付ける。2人は旅の始まりである東部の街まで、2か月かけて旅を続ける。途中で色々なことがあったらしいが、そこはダイジェストで流されてしまう。フィリアは成長し、人間も撃てるようになった。

 

この帰りの旅は、ジュードは自分が死ぬことがわかっているし、フィリアもそれを薄々感じているだろうし、フィリアを完全に人間として扱うので優しいジュードが見られる祖、エモさの塊だったであろうだけに、ダイジェストで流されてしまうのが非常にもったいなかった。

 

街が近づいてきたある日、ジュードは自分の死期を悟り、きれいな景色が見たいとフィリアに言う。怪しむフィリアだったが、それでもその景色を探してきてくれた。そこでキャンプを張りながらジュードは、未来を自由に探すことが好きで、今までは未来とは古代の叡智のことだと思っていたと考える。しかし、今は、未来とはフィリアのことだと気づくことができた。

翌朝、目が覚めたジュードは今まで外す事のなかったデバイス類を全て身体から外し、生身の身体で自然を感じることにした。気づいたフィリアが慌てて寄ってくるが、ジュードはもう寿命が残っていないことをフィリアに伝える。ジュードは自分の知識を全てフィリアに伝えて満足しており、最後にフィリアを本当の娘のように思っていた、と本人に伝える。フィリアは、ずっとそういう関係になりたかった、と言い、ジュードは自分の姓であるグレイをフィリアに与える。また、ずっと前から、身体はアンドロイドでも、心は人間になれていたことをフィリアに伝える。ジュードは消えゆく意識の中で、自分は大切な何かを運び、それを託すことができた、とつぶやく。それはフィリアという希望のことで、ジュードは満足感に満たされたまま、死んでいった。

フィリアはジュードが死んでから1日はそのそばで悲しんでいたが、ジュードの墓を掘り、ジュードの使っていた銃を墓標代わりに突き立て、また自分の頭についていた花の髪飾りを、手向けとして備えた。フィリアにとって、この髪飾りは人間に愛されるための証であり、また人のために生きる機械であることの証だったが、今のフィリアにはもう必要ないものだった。そしてフィリアはver君と一緒に前に歩き出すのだった。

 

エピローグではまだ定期的に生まれてくるAe型アンドロイドが虐げられているなら、それを助け、Ae型アンドロイドの自我を育てるための手助けをする活動をしているフィリアの姿が描かれ、また肉体的にも少し成長が見られた。

最期は「ーそれでも人は、まだ生きているー」という言葉で締めくくられる。

 

・終わりに

 

主人公であるジュード役の木村良平さんの演技も素晴らしく、主人公にも声があることでさらに輝く作品であると思った。ロープラ作品であるからこその尺の短さを、必要十分なやりたかったことでぶん殴ってくる感じであり、濃密さがあってとてもよかった。恋愛感情をはさまない場合のアンドロイドものとして、これは1つの到達点であると考えた。終末ものが好きなこともあって、雰囲気としても最高だった。

デリラの死とジュードの死という、死によるオチを2つも重ねたことに関しては諸説あると思っている。しかし、見たかった田中ロミオを見せてくれた作品であり、その点に関しては非常に満足している。

keyなので音楽も素晴らしく、EDが一番好き。